2015年 04月 04日
Scavenger/Hunter第一話:「霹靂」 |
薄暗い闇の中、誰かが力無く座り込んでいる。それはまだ年端も行かぬ少女であった。
……"少女"。だが彼女は人間ではなく、どちらかというと機械的な姿をしているようにも見て取れる。しかしその動きは人間のそれに近く滑らかで、その外見は人間でこそ無いものの美しいという表現に見合って不足のない、整った姿形であった。
そんな彼女を取り囲むように、何かが転がっている……恐らく彼女の仲間と思われるものの身体である。 地面に転がった"ソレ"の多くは傷だらけで、中には手脚が無残に引きちぎられたものや、傷つけられた腹部から臓物が覗いているものまであり、凄惨そのものと言える光景であった。無論それらの目にもう光は宿っていない。
よく見るとそれらに囲まれた彼女自身も多くの傷を負っており、その傷は静かに出血を続けている。
「……どうして……まだ来ないの…」
少女は決して浅く無い己の傷を押さえながらも自然にそう呟いていた。
「……あれだけ来てくれるって言ってたのに……遅いよ…………」
震える手を握り締めながら彼女は言った。
「……遅すぎるよ!!!!」
彼女の悲痛な叫び声が辺りに木霊し、響かせた。
ーScavenger/Hunterー
「遅え!!いつになったら来るんだよあいつ!」
若い男は長めの髪を掻き毟りながら叫ぶと、バッグから"赤つちのこ"とラベルに書いた瓶を取り出し蓋を開けるとその中身を一気に飲み干した。
辺りは人気のない原生林であり、近くにはホンマダラガッパでも出没しそうな沼地もある。
「……う…眠…」
隈のできた虚ろな目をしたその男は、両腕を頭上に伸ばして伸びをすると自分がここ最近眠れないでいる原因について思慮を巡らせ始めた。
……夢。だが当然の事ながら普通の夢ではない。シギの様に反り返った嘴のついたガスマスク顏の異形の怪人が自分に何か語りかけて来るのである。最もそれは朧げで、どんな事を喋っているのかまでは分からないが。
しかも最近は眠っている時どころか、時折起きている時にさえその声が聞こえてくるのである。
「ついにどうにかなっちまったかな俺…」
男はその場に座り込むと懐から携帯通信機を取り出した。痺れを切らした彼は、もともと待ち合わせする事になっていた友人に連絡する事にしたのである。
若い男ー彼の名は"島窓光平"(しままどこうへい)。ここから少し離れた街の若者だ。彼はフリーの野生動物研究家であり、学校やイベント等で子供たちに生物観察の楽しさを教えたりする傍ら、珍しい習性の動物を取り上げた本などを出版したりしてなんとか生計を立てている。実際彼の文章センスやキャラクターにはどこか独特なものがあり、その道ではそこそこ名が通っている。
そして彼が待つのもまた一風変わった若者、名を"笹葉海斗"(ささのはかいと)と言う。彼は数ヶ月前から光平の住む街に越して来た少年であり、光平が開いた野生動物観察会に何度か参加するうちに意気投合し、以来共に山や海へよく遊びに行くようになった。彼は容姿に恵まれている上に、育ちの良さを伺わせる礼儀正しさと柔軟かつ筋の通った性格からか友人も多い。中でも趣味の合う光平とは年が離れていながらも特に仲が良かった。
そして今日も二人でここに遊びに来る予定だったのだが、今日は何故か海斗がいつまで立っても現れない。そこで光平は海斗に連絡する事にしたのだ。
「おい海斗!もう一時間も過ぎてるけど何かあったのか?」
光平が苛立ちを隠しきれていない口調で話す。
「一時間もって…昨日中止にしようって話したばかりじゃないですか!」
海斗の声が一瞬裏返り、驚いた様子で返した。
「あれっ……?そうだっけ?」
「そうだっけじゃありませんよここ最近リズのアームヘッドがあの周辺に現れるからもうあそこに行くのはよそうって昨日話したのに!」
海斗は息継ぎもせずに言った。
…駄目だ、完全に覚えていない。恐らくここ最近の夢のせいで上の空だったのか、はたまた居眠りしたまま適当に返事していたのか……
「とにかくそこは危ないですから早く逃げて!」
海斗の口調は正に一刻を争うといった感じで、かなり焦っている様子だった。
「でも今日もここに来るとは限らないんじゃないの?」
一方で光平の口調はどこか間の抜けた様子で、危機感の欠片も感じられない。
「いいから早く!!」
そう言う海斗の声が聞こえたかと思うと、通信はそこで切られてしまった。
「……よく分からないけど、ここから立ち去った方がいいってことか…」
光平は気怠そうにその体を起こして街の方へと向かおうとした。だがその矢先であった。
遠くから高い音が聞こえて来る。エンジン音?高機動弥生あたりかはたまた…
しかし朧げながらその姿が顕になっていく。機影は四機。二種類の機体が二機づつの編成を組みながらこちらに飛んでくる。高機動弥生と睦月あたりであろうか?否!それらは近づくにつれてその姿をはっきりと現した!
片方は深緑の大きな翼を持ち、巨大な一本角を生やした姿だ。もう一方は二枚の銀色をした羽根を持ち、両腕には鎌と銃を足した様な奇妙な武器を装備している。そしてその頭部は古代の獣戦士めいた深緑の恐るべき仮面に覆われている!!
「……あれはリズ連邦の……ヴァンデミエールとホピトンV!?」
光平が驚く間もなく、4機のアームヘッドは土煙をたてながら林に降り立った。
続
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by amidako_san
| 2015-04-04 14:49
| ストーリー