2016年 01月 24日
Scavenger/Hunter 第五話「スカベンジャーズ」 |
「俺、入るわ。スカベンジャーズ。」
俺が海斗にこう言ったとき、この先自分がどんな事をしていかなければならないかなんて深く考えてはいなかった。
ただあの時の俺を動かしていたのは、ルシルやスカベンジャーズの人達とこれから一緒にいたい……そんな感情だった。
あれから俺はチャールズさんや東雲所長から改めて話を聞き、アームヘッドに乗る上で知っておかなければならない基本的な知識について説明を受けた。
アームヘッドとは、一見人間が操縦する人型機械のようにも見えるが、その実態は金属製の装甲を纏った半無機半有機生命体……いわば「生体兵器」である。
そして、その中核となるのがアームコアと呼ばれる「意志」を宿した特殊な球体なのだそうだ。
あの森でスカベンジャーズが回収した赤と黄色の光を放つ球体もアームコアであり、俺がルシルと呼んでいたあの怪人の意志も、そのアームコアと呼ばれる球体に宿っているもので間違いないそうだ。
そしてアームヘッドの最も大きな特徴であり、必要不可欠なのがそのアームコアに内包された意志と搭乗者が共鳴して発動する特殊能力……「調和」と呼ばれるものらしい。
そもそもアームヘッドとは搭乗者とアームコアの相性が合ってこそ初めて成り立つものであり、相性が悪ければ起動させることすら出来ない。そして場合によってはかなり人を選ぶコアも存在するようで、例によってルシルのコアはそうだった。実際、スカベンジャーズのメンバーの誰がルシルのコアを持っても何の反応も示さなかったのに対し、俺が持つとそれは強い光を放ってより一層輝いた。
そんなわけで、アームヘッド乗りに一番大事なのはコアとの相性であり、今回俺がスカベンジャーズに誘われた一番の理由の一つがこれであるそうだ。
また、驚くべきことに、先日の森での戦闘はリズの組織が狙っていた最上級クラスのアームコア……つまりルシルのコアをリズへ渡さないために御蓮から直接依頼された仕事であるという事も告げられた。
そんな話を聞いて、国から直接依頼を受けるような凄腕の組織に俺なんかが入って大丈夫なのかと不安が増したが、基本的には特殊戦闘集団といってもアームコアや資源の回収が主な仕事であり、そこまで心配する事ではない……らしい。
そして俺の方からも、俺がかつては両親と暮らしていたが、あろう事か将来の事で両親と喧嘩して街を飛び出した直後にその街で武装組織による戦闘が起こり、それが原因で両親は死亡、現在は一人で暮らしていたという事を告げた。
そんな俺が曲がりなりにもアームヘッドの武装組織であるスカベンジャーズに入隊するというのも妙な話だが、スカベンジャーズの人たちと触れ、そういった暴力的な組織とスカベンジャーズは明らかに別物なのだ、そう俺は判断した。
こうして俺は晴れてスカベンジャーズ入りする事となり、あれから数日が過ぎた。
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某日の昼頃、電車の中で奇妙な三人組がならんで座っていた。
銀色の長いコートを纏った銀髪の男チャールズと、短く揃えられた金色の髪を後ろで束ねた白い服の少女エレン、そして男としては少し長めの真っ黒な髪を妙なほど丁寧に整え、ほとんど使用した跡の見られない新品同然のスーツに身を包んだ動きのやたらぎこちない青年……光平である。
「服装をしっかりすれば中々いい男じゃないか、光平くん?」
唐突に話を切り出したのはチャールズた。
「そうですよ光平さん!その……いつもとはまるで別人みたいにかっこいいです!」
続けてエレンが無邪気に言った。
「それはどうも……それより、どんな人なんですか?笹葉重工業の社長、ヤマトさんって」
肩を強張らせた光平が、緊張した様子で答えた。
「安心しろ光平くん。社長は君を取って食ったりはしないぞ?挨拶に行くだけなんだから、もっと堂々としなきゃな」
「大丈夫です光平さん、私たちも一緒ですし!さあリラックスリラックスです!」
「は、はあ……」
光平はチャールズとエレンに挟まれて、少し小さくなったように見えた。
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駅へついてしばらく歩くと、笹葉重工業の建物が見えてきた。やはり重工業というだけあって大きめで立派な棟が二つほど並んでいる。三人は敷地内の入り口へ入ると、二つある棟のうちの一つへと入り、そのまま奥へと進んだ。
「か、海斗ってこんな凄い会社の社長の息子だったのか……」
光平は思わず感嘆の声を上げながら更に奥へ奥へと目指して歩いていくうちに、ついに社長室と書かれた札のある扉の前へと辿り着いた。
「し、失礼します!島窓光平と申します!笹葉ヤマトさんに用があって参りました!」
「……職員室じゃないんだぞ?」
緊張しながら扉を開ける光平を諭すようにチャールズが言った。
部屋の中はグンタムのプラモらしき物が隅に飾ってあること以外はいかにもといった内装で、これまた高価そうな木製の作業机の横には50代ほどの堅実そうに見える男性がこちらを向いて立っており、その後ろでは秘書と思しき美しく若い女性が前で手を組んで軽くお辞儀していた。
「ようこそ、話はチャールズや東雲から聞いているよ島窓光平くん。初めまして、私が笹葉重工業の社長こと笹葉ヤマトだ。よろしく。」
堅実そうな男性が光平に向かってお辞儀した。社長といっても威張り散らしているような雰囲気はなく、かといって謙虚過ぎるわけでも無い。いかにも礼儀正しい大人の作法といったように見える。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
光平がヤマトに向かって深くお辞儀しながら言った。
社長と三人は向かい合うようにして中心の大きなテーブルの前に座って幾つか会話を交わした後、本題に入った。
「分かっての通り、光平くんには我が社の特殊戦闘集団、スカベンジャーズに所属し、とある汎用機に乗って貰いたい。」
「は、汎用機……ですか?」
社長にの言葉に光平が返す。
「そう。とは言っても特殊性に特化したアームヘッドが揃うスカベンジャーズの機体だ。勿論ただの汎用機な訳が無い。」
「と言いますと?」
「我が社の優秀な研究員、バンデットがあらゆる国のあらゆるアームヘッドを解析して構想を重ね、汎用機としての一つの答えに達した機体。追加装備次第であらゆる戦況に対応可能、どんな特化型アームヘッドにもなり得る究極の汎用機……"ファイアフライ"だ。チャールズ、設計図とコアは持ってきているな?」
社長がそう言うとチャールズは手に持っている銀のアタッシュケースを開き、中から現れたびっしりとメモとスケッチが書かれた紙の束と金属製の缶型の容器ごとルシルのアームコアを社長へと渡した。
「究極の汎用機ですか……そんなもの、僕に扱えるんでしょうか?」
不安そうに尋ねる光平。
「そんなに心配する事は無い。操縦自体は君が考えているほど難しくは無いし、スカベンジャーズの皆が手とり足とり教えてくれるはずだ。そうだな?エレン。」
「任せてください!」
そう言う社長に、エレンは得意げに答えた。
「後は、こちらでファイアフライの製造を行い、完成しだいそちらへ納品する。今日はわざわざ遠くからご苦労だったな、チャールズ、エレン、光平くん。」
「了解しました社長。では本日はこれにて」
チャールズが立ち上がろうとした瞬間、社長の後ろに立っていた女性の携帯通信機から音が鳴った。どうやらメールのようである。
「更紗、携帯の電源は切っておけとあれほど……」
社長が初めて少し不満そうな表情を見せて女性の方を見た。
「ごめんなさいお父様……あ、東県支部のお母様からよ。お父様が組みもしないのにグンタムのプラモいっぱい買ったりしてないかですって。」
「こ、こら更紗、こんな所でそんな話をするのは……」
社長が少し恥ずかしそうに頭の後ろをかきながら言った。
「お、お父様だって!?という事はあの女の人って……」
「紹介が遅れました、笹葉重工業副社長の笹葉更紗(ささのはさらさ)です。いつも弟の海斗がお世話になっております」
驚く光平に、美しい女性ー更紗が僅かに微笑みながらお辞儀した。
「か、海斗にお姉さんがいたのか!?しかも副社長って……」
「おや、海斗から聞いた事は無かったのか。更紗はじきにこの会社を継ぐ事になる私の娘だ。本当は男の海斗に継いで欲しい所なんだが、あいにくこういった仕事に関しては更紗の方が優秀でな。海斗はむしろアームヘッドに乗っていた方が才能を発揮できるだろうからスカベンジャーズに入ってもらっているんだ。」
社長が困惑する光平に答えた。
「なるほど。ところでグンタムというのは……」
「き、気にするな光平くん。君だってそういうの好きだった時代があるだろう?」
社長が照れ隠しも兼ねて光平に尋ねる。
「えっと、僕は好きだったし観たかったんですが親がそういうの観せてくれなくって……あんまり詳しい訳じゃないんです」
「そうだったか……ともかく、今日は帰ってゆっくり休んでくれ。東雲所長も美味しいご飯を作って待っているはずだ。」
「あっ!そういえば、今日はスープスパゲッティにするって所長言ってましたよ!東雲所長の作るパスタ料理、とっても美味しいんです」
所長に続けるようにエレンがそう言って光平を見ながら微笑む。
「それは楽しみだな……では社長、本日はありがとうございました。これにて私たちは失礼します」
「うむ、三人とも気をつけてな。アームヘッドの方はこちらで最高の完成度の物が出来次第納品するからそのつもりでいてくれ」
棟を出た三人は、社長と更紗、そして何人かの社員達に見送られて帰路についた。光平は長い電車の中で、社長の事を思い出しながら眠りに落ちた。
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ある朝。春もそろそろ終わり、梅雨に入らんとする季節。スカベンジャーズの根城、笹葉バイオ研究所があるこの森は意外にも穏やかだ。
若葉の茂る木々の先には小鳥が囀り、それを捉えんと後ろからそっと忍び寄るのは樹上性のテングの一種、アサギイロツメナガテングだ。そろそろと音を立てぬよう枝先へと忍び寄るが、あと一歩でその長い爪が小鳥を捕らえんとする所で小鳥は飛び立ち、テングは樹を紛らわすかのように羽繕いめいた仕草を始めた。命の息吹が溢れる豊かな風景である。
そんな中、笹葉バイオ研究所のハンガーでは何やら慌ただしく作業をしていた。
「オーライ!オーライ!ストップ!」
カルマンが威勢の良い声で、後部の貨物スペースに何かが横たえられ、ビニールシートが掛けられた大型トレーラーをハンガー内に誘導していた。
広いハンガーの中には、銀色の蜂を思わせるチャールズ専用機「ホーネット」、明暗の激しい緑の装甲が特徴的な二本脚のカマキリを思わせるエレン専用機「ゴーストマンティス」、左右が赤と青で色分けされ、本来頭が在るべき部分に巨大な砲身を備えた機体……両腕の代わりに巨大なムカデ型のドローンが接続してあり、胸には悪魔的な顔がついた異形のバンデット専用機「センチピード」、六本の節足を生やしたオタマジャクシのようなシルエットと前面をアクリルのキャノピーがフードの様に覆った見た目が特徴的なカルマン専用機「フーデッドシュリンプ」、そして光平もテレビのニュースなどで度々目にした事がある長い二本のクローアームと二本の黄色いツノが特徴的な青いアームヘッド、海斗専用カスタムを施された「シースラグ」……
どこをとっても個性的なアームヘッド5機が並んでいる。そしてその前でトレーラーの方を見守るのは4人の人影……チャールズ、エレン、海斗、そして光平だ。
「……まさか光平さんがアームヘッドに乗る事になるなんて思いもしなかったなあ。」
海斗が光平を見ながらにこやかに言った。
「正直俺も未だに信じられないんだけどね……」
期待と不安の混ざった表情で光平が答えた。
「じゃあビニールシート取るからね!……楽しみだなあ、ボクが丹精込めて設計した機体だもんなあ。ウヒヒヒ……!」
トレーラーの上のバンデットが不気味に笑いながら、東雲所長とともにビニールシートをめくった!
「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」
7人の歓声と共に、ビニールシートから姿を現したのは紅い人型機だった。上半身は金色に輝く鎧で覆われ、背部から生えた四本の突起状のスタビライザーと、肘から生えた金色の刃が特徴的だ。
「中々いいんじゃないの?これ」
「そりゃ所長、ボクがデザインしたんだから当たり前でしょ!ヒヒッ」
「わあ、金色の鎧が綺麗ですね!」
「俺もあんなのに乗り換えたいもんだな!ハハッ!!」
「そんな事言ってるとまたフーデッドシュリンプにスネられますよ?」
「ふむ……思ったより悪くはないな」
「これが……俺のアームヘッド……!!」
それぞれの思い思いの感想を述べながら人々に眺められる紅の巨人の無機質な顔は、光平には少し嬉しそうに見える気がした。
続
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by amidako_san
| 2016-01-24 23:51
| ストーリー